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★苺一会☆

きままに更新

「ファンタジー」
キーワード
シリアス 恋愛 三角関係(?) 微エロ 血の表現あり 男女


 60年前のこと。
隣国との戦争の時。二人の英雄が生まれたという。
 
美しき守人の血縁。 「雪」 黒き乙女。 「深(しん)」

守りの陣の塔にて、失われし陣を復活させ国を守る。
美しき守人の血縁。 「雪」 は生きた英雄として……。
黒き乙女。 「深」 は隣国に捕らえられ無念の死を遂げる。

英雄の誕生により、失われし陣は復活し、国は平和になった。
隣国との不可侵条約は確立。守人の権威復活。

そして……今、がある。









「君ありて幸福」









 国境の町が燃えていく、緑溢れる地が消えていく。 全て燃えた。 
頭上でパンッと爆発音が聞こえた。 空を仰ぎ見ると緑の煙が見える。
あれは敵国の退却の合図。 町を殲滅しもうすることもなくなったのだろう。
兵士のバタバタと去っていく足音だけが聞こえてきた。もう悲鳴さえ聞こえやしない。
 なんで……こんなにもココロが乾いていくんだろう。
呆然と立ち尽くす私に、切羽詰まったような声で呼びかけられた。

「深っ(しん)戻ろう。ここにいても……もう」
「……いや……一応、生存者を探そう?」
「……深」

雪は俯いて唇をぎゅっと噛んだ。少し体も震えている。
わかってる。 たとえ生き残りがいたって助けてやれないことぐらい……わかっているさ。
すぐに、軍本部に赴き現状を報告しなければいけない……。
……本当に何も出来ない、してやれることもない。 この町で出来ることは無いって知ってる。
自然と顔が俯いて体が震えた。 その時、雪は私の手を強く強く握り締めた。

「行かなきゃ……深」

 きっぱりと、言い放つ雪の顔は歪んでいて、見ている私の方が胸が痛くなった。
こんな顔させて……雪のほうがずっと私よりもつらいはずなのに。
何を躊躇している?そんな暇さえ今は無いんだ。 仲間の為にも行かなくては。 
雪と目を合わせ、私はゆっくりと頷いた。 大丈夫だと。
 
 その時、雪の真後ろの方で鉄の擦れる音がした。 咄嗟に雪の手を引き後ろに隠す。
腰にある、剣を抜き襲い掛かってきた残党と剣を交える。 キンッと小気味いい音が響いた。
ドタドタと足音が複数聞こえる、どうやら二、三人まだいる。

「っ行け雪!ここは私に任せて、ぅっ……行け!」
「っわかったわ……赤き木でっ」
「わかってるっ、っ行け!」

雪は走り出す。私は目の前のなぎ払った。顔に血が飛び散る。 
一人、倒れ。二人倒れる。最後の一人は、どこか怯えるようにカタカタと剣が揺れる。
ふと、雪が走り出した方に目を向ける。 ……無事に合流地点にいるかな。
目線を目の前の男に戻し、男は相変わらず目が血走っていた。

「お……お前……くっ黒髪の……死神?」

歯がかみ合わないのか、煩いぐらいに歯の音が聞こえる。 はぁ……溜息が出る。
前の前線で、一人帰還した私を見て敵国の兵士がつけたらしい。
私の黒い髪と目は珍しい色なのだと言う…だからそんな通り名になった。
……一人だけ生き残った本当の意味も知らずに怯えて、バカな男だ。

「しね」
「ひぃっ……ばけも…………」

どうでもいい。 消えてしまえばいい。 血が体を汚す。
なんの感情も起きなかった。 起きるはずも無い、心など置いてきた。
雪が走り去ったほうへ目を向ける。

「……雪が待ってる」

後ろを振り向いたとき背中に衝撃が走った。
反射的に振り返り男の胸へと剣を突き出す。心臓をつらぬいていた。 
ずるりと、剣を引き抜く。 また血がこびりつく。 はやく、早く、行こう。
こんな、こんな汚れた街になんていたくもない。

一目散に雪との合流地点へと走った。







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2009.10.23 04:01 | 小説 | トラックバック(-) | コメント(-) |